耐水グリスとは?増ちょう剤の成分別におもな種類と特徴、用途を解説
自社工場の各種機械をスムーズに動作させるために、重要な役割を担うグリス。一口にグリスといっても、備えている性能や形状からさまざまな種類が存在しています。なかでも、水分の影響を受けやすい箇所や湿潤環境での使用に適しているのが「耐水グリス」です。
本記事では、耐水グリスの特徴について解説します。また、グリスの耐水性能に寄与する成分や耐水グリスの分類、おもな用途についてもご紹介します。自社工場で使用できる耐水グリスをお探しの方は、ぜひ参考にしてください。
また、耐水性能にすぐれたグリースをお探しの方であれば「JAX JAPAN」が提供する「製品」をご検討ください。
耐水グリスとは?
耐水グリスとは、文字通り、水分の影響を受けにくい潤滑剤です。そもそもグリスとは、液状の潤滑油に「増ちょう剤」や「添加剤」を組み合わせた、半個体または個体状の潤滑剤を意味します。
粘度が高いため、軸受やベアリングなど、液体潤滑油では油膜を形成しづらいベアリングやギア、その他の摺動面(しゅうどうめん)などに使用されるのが一般的です。
なお、耐水グリスは水に対して、以下のような性質を持っています。
- 水によって流されにくい性質
- 吸水しにくい性質
- 吸水した際に成分・形状の変化が発生しにくい性質
製造工程で水を使用する製鉄機械や製紙機械、食品製造機械や屋外で使用する建設機械などでは、流水によって、潤滑面からグリスが流れ落ちてしまったり、水分を吸収することで軟化してしまったりといった不具合が発生します。
そのような、水分による潤滑の不具合発生を防ぎ、自社機械を保護するために、耐水グリスは重要な役割を担っています。
耐水グリスの性能に影響を与える成分
グリスの耐水性能は、添加されている「増ちょう剤」の成分の影響を強く受けます。なお、グリスに添加されている増ちょう剤は、大きく以下の2種類に分かれます。
- せっけん系
- 非せっけん系
石けん系のグリスは、増ちょう剤として金属石けんを使用しているのが特徴です。原料として、金属成分と高級脂肪酸のみを使用した一般的な石けん系グリスの他に、低級脂肪酸や有機酸を組み合わせた「複合石けん系グリス」も存在しています。
一方、非石けん系グリスは、金属石けん以外の成分を増ちょう剤として使用しており、大きく以下の種類に分かれます。
- 分子内に2つ以上のウレア結合を有する有機化合物を添加した「ウレア系グリス」
- ナトリウムテレフタレートやPTFEなどが添加されている「有機系グリス」
- 有機化ベントナイトやシリカゲルなどが添加されている「無機系グリス」
増ちょう剤の成分は、耐水性だけでなく、耐熱性や粘度低下に対する抗性「せん断安定性」にも大きく寄与します。自社機械を長期間、安全に使用するためにも、用途や使用環境に合った最適な成分の増ちょう剤が添加されたグリスを選定しましょう。
【関連記事】耐熱グリスとは?成分別におもな種類と特徴、使用可能温度を解説
【増ちょう剤別】グリスの耐水性一覧表
添加されている増ちょう剤の成分別にグリスの耐水性能をまとめました。自社機械に使用する耐水グリスを選定する際の参考にしてみてください。
■石けん系グリスの耐水性能一覧表
増ちょう剤の成分 | 耐水性 |
カルシウム石けん | ◯ |
カルシウム複合石けん | ◯ |
ナトリウム石けん | × |
アルミニウム石けん | ◯ |
リチウム石けん | ◯ |
アルミニウム複合石けん | ◎ |
リチウム複合石けん | ◯ |
■非石けん系グリスの耐水性能一覧表
増ちょう剤の成分 | 耐水性 |
ウレア系 | ◎ |
有機化ベントナイト | △ |
シリカゲル | × |
ナトリウムテレフタレート | ◯ |
PTFE | ◎ |
耐水グリスのおもな種類と特徴
耐水性の高いグリスとして、おもに以下の7種類が挙げられます。
- カルシウムグリス
- カルシウム複合グリス
- アルミニウム複合グリス
- リチウムグリス
- リチウム複合グリス
- ウレアグリス
- PTFEグリス
以下で、それぞれの耐水グリスの特徴を解説します。
カルシウムグリス
カルシウムグリスは、増ちょう剤に「カルシウム石けん」が使用されている石けん系グリスです。別名「カップグリス」とも呼ばれ、優れた耐水性を誇ることから、水を使用する機械の潤滑に使用されます。
ただし、使用可能な最高温度は70〜100℃と熱に弱く、液状化しやすいのが欠点です。また、他の耐水グリスと比較して、安価な傾向があるため、大量の潤滑剤が必要な機械・箇所でも重宝されています。
カルシウム複合グリス
カルシウム複合グリスは、増ちょう剤として「カルシウム複合石けん」を添加している複合石けん系グリスです。カルシウムグリスと同様、耐水性能に優れており、幅広い使用環境・用途に対応可能な万能性を備えています。
また、通常のカルシウムグリスとは異なり、高級脂肪酸以外に酢酸が組み合わされているため、最高150℃の高温下でも使用可能な耐熱性の高さも特徴的です。
ただし、カルシウム複合グリスは高温下で硬化する傾向があるため、使用する環境次第では、機械の動作を妨げてしまう可能性もあります。
アルミニウム複合グリス
アルミニウム複合グリスは「アルミニウム複合石けん」を増ちょう剤に使用しています。耐水性や撥水性に優れているのはもちろん、流動性や機械的安定性も高いため、幅広い環境で使用できる汎用性の高い潤滑剤です。
水酸化アルミニウムに安息香酸とステアリン酸を反応させて生成される「複合石けん系グリス」であり、最高180℃の高温下でも使用できる耐熱性を誇ります。
ただし、高温下に長時間さらされると軟化する傾向があるため、その点は注意が必要です。
リチウムグリス
「リチウム石けん」を増ちょう剤に使用している石けん系グリスがリチウムグリスです。最も欠点が少ないグリスと称されており、最高150℃の高温下でも使用できる耐熱性と高い耐水性、機械的安定性を誇ります。
そのため、リチウムグリスは万能・汎用型グリス(マルチパーパスグリス)として、工業機械はもちろん自動車や電化製品など幅広い用途で活用されています。
ただし、他の石けん系グリスと反応し、性質が変わる可能性があるため、成分が混入しない状況下での使用が懸命です。
リチウム複合グリス
リチウム複合グリスは「リチウム複合石けん」を増ちょう剤として使用している複合石けん系グリスです。
水酸化リチウムの高級脂肪酸とホウ酸などの無機酸または、二塩基酸を反応させることで生成しており、高い耐水性・防錆性を誇ります。
また、滴点が260℃と軟化・液状化しにくく、リチウムグリスと比較して、より高温下で使用できる非常に高い耐熱性が特徴です。
ウレアグリス
ウレアグリスは、分子内に2つ以上のウレア結合を有する有機化合物を増ちょう剤として添加した非石けん系グリスです。
耐水性や耐熱性、機械的安定性が高く、リチウムグリス以上の万能性を誇ります。また金属を含まないため酸化に強く、潤滑寿命が高いのも特徴です。
さらに、最高200℃の高温下で使用できる耐熱性を備えているため、製鉄メーカーの鋳造設備や自動車部品の製造機械、圧延機など幅広い用途で使用されます。
ただし、添加されている成分によって、高温で硬化したり、せん断安定性が低かったりするため、稼働条件を十分把握したうえで製品を選択しましょう。
PTFEグリス
PTFEグリスとは、増ちょう剤としてフッ素樹脂であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を使用した非石けん系グリスです。非常に高い耐水性、耐熱性、機械安定性を備えており、200℃以上の高温下でも使用できます。
また、温度による形状・性質変化が少なく、酸化の影響も受けにくいため、幅広い環境で使用できる万能型グリスです。
ただし、PTFEは多くの合成油や鉱物油に溶けない性質があるため、基油(ベースオイル)の種類が限られる傾向があります。また万能な分、価格は高い傾向がある点も欠点の1つといえるでしょう。
耐水グリスのおもな用途
耐水グリスのおもな用途として、以下のような状況が挙げられます。
- 湿潤環境に設置されている各種機械
- 雨に濡れる可能性のある資材運搬機器や車両
- 穀物等のプレス機
- フォークトラック、コンベヤなどの工場設備 など
耐水グリスは、製造・搬送工程で水を使用する機械はもちろん、湿潤環境の工場内で使用する製品機械の潤滑などにも使用されています。
特に、機械や材料の洗浄など水分の影響を受けやすいかつ、高湿度の環境になりやすい食品工場では、耐水グリスが重宝されています。
ただし、食品製造機械に使用するグリスを選定する場合、単純な性能だけでなく、安全性も考慮した製品選びが必要です。
食品工場で使用可能なH1規格の耐水グリスをお探しなら
自社の食品工場で使用可能な耐水グリスをお探しであれば「JAX JAPAN」が提供するH1グリースをお試しください。
H1グリースは、公衆衛生・環境に関する事業を行う第三者機関「NSF」が定める「H1規格」を満たす食品機械用潤滑油です。
アメリカの政府機関であるFDAから認証された安全性の高い原材料のみを使用しているため、万が一、製品に混入し、消費者の口に入ったとしても、健康被害を最小限に抑えられます。
もちろん、機械の動作を補助する潤滑剤として、多くの食品・飲料業界の工場に対応可能な耐水性や潤滑性能を備えています。
自社製品の安全性と信頼性を担保するだけでなく、食品機械の安定稼働にも役立つ高性能耐水グリスをお探しであれば、お気軽に「JAX JAPAN」までお問い合わせください。
【関連記事】JAXのH1グリース「ハローガードFG」ってどんな製品?