潤滑油の適切な保管方法とは?3つの注意点や消防法における数量指定を解説
各種工場の機械メンテナンスにおいて、幅広く使用されている「潤滑油」。
潤滑油は他の油と比較して引火点・発火点が高い傾向にありますが、引火しないわけではありません。
なかでも、シリンダー油やギヤ油は、危険物第4類石油類に分類され、火気の近くに保管すれば事故の危険性も高まります。
そのため、潤滑油の取り扱いには、常に慎重さが求められます。
適切に保管することで、事故を未然に防ぎ、生産性を向上させられるでしょう。
この記事では、潤滑油の適切な保管方法や、保管する際の3つの注意点を解説します。
消防法における数量指定についてもあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
潤滑油の適切な保管方法
潤滑油は保管する容器や場所によって、適切な方法が異なります。
貯蔵タンク、ドラム缶などの容器詰め類ともに、慎重に保管場所を選定する必要があります。
どちらも、油の漏れを防ぐために、適切な容器や棚を使用し、定期的な点検を実施しましょう。
また、保管場所には火災報知機や消火器を備えることを検討し、火災への備えが必要です。
方法①:貯蔵タンクで保管する
貯蔵タンクで保管する方法は、以下の2つに分けられます。
- 屋外の地上タンクで保管する
- 地下タンクで保管する
それぞれを詳しく見ていきましょう。
屋外の地上タンクで保管する場合
地上タンクは屋外に設置され、気温の変化が大きく、夜間にはタンクに凝縮水が発生しやすくなります。
そのため、定期的にタンクの底にたまった水を排出する作業(ドレン切り)を実施しなければなりません。
ドレン切りを怠ると、新たに潤滑油を補充する際にタンク底の水や泥分がかき上げられ、異物混入のリスクが高まります。
異物混入は、設備機器の故障の原因にもなるため、定期的なドレン切りを徹底しましょう。
地下タンクで保管する場合
地下タンクは地中に埋められたり、地下室に設置されたりします。
配管や接続部分に破損やゆるみなどの問題があると、水や泥分が混入する可能性があります。
トラブルを回避するためにもドレン切りが有効ですが、埋め込まれた地下タンクでは難しいケースもあるでしょう。
代替策として、水分に触れた部分だけが赤色に変化する「ウォーターリボン」を活用するか、日々の受け払いと検尺で潤滑油の量に大きな誤差がないか確認します。
また、油を受け入れる際にタンクの蓋をしっかり閉める、ジョイント部分を清潔に保つなどの基本的な対策も重要です。
いずれにせよ、潤滑油の品質を維持するために、タンクを定期的に清掃することが欠かせません。
方法②:容器詰め類で保管する
容器詰め類で保管する方法は、以下の2つに分けられます。
- 倉庫などの屋内で保管する場合
- 屋外で保管する場合
どちらも、管理に共通する注意点があります。
注意点 | 解決法 |
品質劣化 | 先入れ先出し方式を守る |
油種の混同 | 記号や番号などを使用して識別する |
オイルポンプの混用 | 保管品のグループ分け
オイルポンプの洗浄と端切り |
キャップのゆるみ | キャップをしっかり絞める
シートなどで天板を覆う |
容器詰め類で保管する際は、別種類の潤滑油が混入しないように注意する必要があります。
保管している油の量が多いなど、オイルポンプの本数が多くなり管理が煩雑してしまう場合は、潤滑油メーカーと相談し、油の混入を防ぐ方法を検討しましょう。
倉庫などの屋内で保管する場合
ドラム缶など容器詰め類は、倉庫内に種類別に分別、整理して保管することが最適です。
その際、倉庫内は消防法に適合した設備を備えるとともに、湿度を低く保つ必要があります。
油は湿気によって酸化し、劣化するため、湿度を低くすることで潤滑油の品質を維持できます。
また、塵埃が浮遊すると、潤滑油に混入して劣化の原因となるため、塵埃などが浮遊しないようにしましょう。
加えて、こぼれた潤滑油をすぐに拭き取り、危険性のない状態を維持することも重要です。
屋外で保管する場合
屋外でドラム缶などを保管する場合、潤滑油の品質を保ちつつ安全に保管するために、以下のポイントに留意することが重要です。
- カバーの使用
- 横置き
- 設置場所
例えば、縦置きのドラム缶は、天板に雨水が溜まり、錆や劣化のリスクが高まります。
屋外でドラム缶を立てて保管する場合、天板上に雨水が溜まらないように、必ずドラム缶を傾けて設置してください。
横置きに際して、枕木を敷いて直接地面と接触しないようにし、口金を水平になるよう配置することも重要です。
また、一旦開封したドラム缶は、できるだけ倉庫などの室内で保管し、カバーなどで天板を覆って養生してください。
開封後の保管では、開封前より、水分の混入と劣化を防ぐための注意が必要です。
潤滑油の保管期間の目安
保存期間は潤滑油の種類によって大きく異なります。
金属加工油には多くの添加剤が含まれており、これらの添加剤が長期間にわたる保管中に分離し、沈殿します。
比較的早く品質劣化が生じるため、正確な保存期間を知りたい場合は、製造元の潤滑油メーカーに問い合わせるのがおすすめです。
なお、工場設備油は金属加工油よりも安定しており、保存期間が長いのが特徴です。
品質の維持を考えると、1年程度の保存が可能です。
保管する際は、環境の影響を受けにくい倉庫や屋内での保管が推奨されます。
どちらにせよ、潤滑油の保存期間を把握し、できるだけ新しい油を使用することが重要です。
古い油は品質が劣化し、設備のトラブルの原因となります。
使用期限を確認し、適切な保管・管理を心がけましょう。
潤滑油を保管するうえでの注意点3選
潤滑油を保管するうえでの注意点は、以下の3つです。
- 水分が混入しないように管理する
- 温度・湿度の変化が少ない場所で保管する
- 在庫量を増やしすぎない
それぞれを順番に確認しておきましょう。
【関連記事】潤滑油の劣化分析とは?3種類の分析法と代表的な試験項目を解説
注意点①:水分が混入しないように管理する
潤滑油を保管するうえで、最も注意するべきポイントは水分の混入を防ぐことです。
潤滑油の保管に使用されるドラム缶は、太陽の熱による膨張と気温の低下による収縮が毎日繰り返されています。
そのため、いくら厳重に密閉されていても、水分混入のリスクが高まります。
水分の混入を防ぐためにも、ドラム缶は横に配置し、口金が油面の下になるよう水平に保つことが重要です。
横置きにより、雨水や湿った空気がドラム缶の中に吸い込まれるリスクを最小限に抑えられます。
なお、水分が多い環境で潤滑油を使用・保管する場合は、耐水性の高い製品を選定するのもおすすめです。
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注意点②:温度・湿度の変化が少ない場所で保管する
潤滑油の品質は、温度や湿度の変化に影響を受けます。
例えば、温度変化により油の膨張と収縮が発生すると、水分が混入するリスクが高まります。
消防法などの規制に適合し、湿度が低く、昼夜の湿度差が少ない環境で保管しましょう。
なお、精製度の高いベース油を使用する潤滑油では、添加剤の溶解度は低下傾向にあります。
粘度指数向上剤などを多く含む製品は、低温での長時間保存時に添加剤が分離する可能性があるため、慎重に取り扱う必要があるでしょう。
注意点③:在庫量を増やしすぎない
潤滑油は最小限度の在庫を維持し、古いものから使用する「先入れ先出し方式」を守りましょう。
特に潤滑油の劣化には、注意が必要です。
劣化した製品を使用すると、機械の故障につながるだけでなく、生産低下を引き起こし余計なコストもかかってしまいます。
また、水溶性難燃性作動油やソルブル油など、特定のタイプの潤滑油は、長期保存時に成分分離や劣化が起こりがちです。
長期在庫品は、定期的にサンプリングして品質を確認しましょう。
消防法における保管可能な潤滑油の数量
潤滑油製品には引火点があり、消防法と密接に関係しています。
下表は、第4類引火性液体の消防法における保管可能な潤滑油の数量です。
品名 | 該当する物品例 | 性質 | 指定数量 |
特殊引火物 | ・二酸化炭素
・ジエチルエーテル ・アセトアルデヒド など |
特殊引火物 | 50L |
第1石油類 | ・ガソリン
・ベンゼン ・トルエン など |
非水溶性 | 200L |
・アセトン
・ピリジン |
水溶性 | 400L | |
アルコール類 | ・エチルアルコール
・メチルアルコール など |
アルコール類 | 400L |
第2石油類 | ・軽油
・灯油 など |
非水溶性 | 1,000L |
・酢酸
・プロピオン酸 など |
水溶性 | 2,000L | |
第3石油類 | ・重油
・クレオソート油 など |
非水溶性 | 2,000L |
・エチレングリコール
・グリセリン など |
水溶性 | 4,000L | |
第4石油類 | ・ギヤ油
・エンジン油 ・シリンダー油 など |
第4石油類 | 6,000L |
動植物油類 | ・ヤシ油
・パーム油 ・オリーブ油 など |
動植物油類 | 10,000L |
指定数量とは、保管できる最大数量であり、届出が必要です。
仮に、届出していない場合の保管可能量は、指定数量の20%です。
例えば、第4類第四石油類の潤滑油を500L保管している場合、指定数量が6,000Lなので、指定数量の0.1に相当します。
危険物の指定数量に満たない量は少量危険物として扱われる可能性があるため、少量危険物保管庫で管理する必要があります。
潤滑油の多くは危険物に指定されておらず厳格な規制がない分、取り扱いや保管への注意が疎かになりがちです。
あくまでも油ということを忘れず、適切に保管しましょう。
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