粘度指数とは?計算方法や粘度指数向上剤のメリット・デメリットを解説
潤滑油にはそれぞれ固有の粘度がありますが、この粘度は温度によって変化し、変化の度合いは製品によって様々です。
温度による粘度変化を把握するためには、粘度指数という物性値を理解する必要があります。
本記事では、粘度指数の概要や計算方法、粘度指数を向上させる添加剤「粘度指数向上剤」を使用するメリット・デメリットについて解説します。
高温環境下で使用できる粘度指数の高い潤滑油についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
粘度指数とは
粘度指数(viscosity index)とは、潤滑油の温度に対する粘度変化の度合いを表した物性値です。
言い換えれば粘度の温度依存性を表したもので、値が大きいほど温度による粘度変化が小さく、温度変化に強いことを意味します。
指数値は粘度の温度依存性が極めて小さいペンシルバニア系潤滑油を100、極めて大きいガルフ・コースト系潤滑油を0として定めており、0〜100の値が一般的です。
ただし、これはあくまで基準値であり、潤滑油によっては値が0を下回ったり、100を超えたりすることもあります。
なお、粘度指数は使用可能温度や用途範囲などの指標となるため、潤滑油を選定する際に重視される項目の一つです。
粘度指数と動粘度の違い
潤滑油の粘度特性の1つに動粘度と呼ばれるものがありますが、粘度指数と動粘度は全く異なる物性値です。
動粘度は潤滑油の粘度をその潤滑油の密度で割ったもので、粘度の指標に用いられる物性値となっています。
しかし、粘度指数はこの粘度の変化について、どの程度の温度依存性があるのかを表したものなので、物性値としては全く異なるものです。
上図は、合成油と鉱物油の2種類のオイルにおける温度に対する粘度変化の度合いをグラフにしたものです。
40℃では同じ動粘度でも、温度が変化すると動粘度は異なる値を記録しています。
実際、動粘度が同じ潤滑油でも粘度指数が異なるケースはいくつもあり、その場合は潤滑油の温度が変わると動粘度に差が生じます。
【関連記事】潤滑油の粘度とは?動粘度と粘度指数についても解説
JIS規格に基づく粘度指数の計算方法
JIS(日本産業規格 )の「JISK2283:2000 原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」によると、粘度指数の計算方法は以下の2種類に分類されます。
- A法
- B法
以下では、それぞれの計算方法について詳しく解説します。
計算方法①:A法
A法は粘度指数が100以下の石油製品に用いられる算出方法であり、以下の計算式を使用します。
この式は粘度指数(VI)を3つの異なる変数(H、L、U)で表したもので、各変数はそれぞれ以下のように定義されます。
変数 | 定義 |
H | 100℃で試料と同じ動粘度をもち、なおかつ粘度指数が100の潤滑油が40℃で示す動粘度 |
L | 100℃で試料と同じ動粘度をもち、なおかつ粘度指数が0の潤滑油が40℃で示す動粘度 |
U | 試料の40℃における動粘度 |
HとLは試料の100℃における動粘度を元に導出され、100℃における動粘度が70mm^2/sを超えるかどうかで導出方法が異なります。
100℃における動粘度が2〜70mm^2/sの場合は、JISK2283の付表1(p43〜48)から導出でき、記載のない動粘度は補間法により算出可能です。
一方、100℃における動粘度が70mm^2/sを超える場合には、試料の100℃における動粘度をYとして、以下の式から導出します。
これらの過程で得られた粘度指数はJIS Z8401の規定により、丸めの幅を1に丸める必要があります。
※「数値を丸める」とは
与えられた数値をある一定の丸めの幅の整数倍がつくる系列の中から選んだ数値に置き換えること。置き換えた数値を「丸めた数値」と呼ぶ。
引用元:JISK2283:2000 原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法
A法の計算例
試料Aについて、40℃における動粘度が73.30mm^2/s、100℃における動粘度が8.860mm^2/sであるとします。
この場合、100℃における動粘度が2〜70mm^2/sの範囲にあてはまるため、JISK2283の付表1(p43〜48)と補間法からL=119.94、H=69.48と導出できます。
これらの値と試料の40℃における動粘度を計算式に代入した結果は、以下の通りです。
丸めの幅を1に丸めると、資料Aの粘度指数は「VI=92」となります。
計算方法②:B法
B法は粘度指数が100を超える石油製品に用いられる算出方法であり、以下の計算式を使用します。
1つ目の式は粘度指数(VI)を1つの変数(N)で表したもので、Nは2つ目の式に示した3つの異なる変数(H、 U、 Y)で表される変数です。
各変数はそれぞれ以下のように定義されています。
変数 | 定義 |
N | YをHとUの比に一致させるために必要なべき数 |
H | 100℃で試料と同じ動粘度をもち、なおかつ粘度指数が100の潤滑油が40℃で示す動粘度 |
U | 試料の40℃における動粘度 |
Y | 試料の100℃における動粘度 |
Hは試料の100℃における動粘度を元に導出される数値で、計算方法はA法と同じです。
B法に関しても得られた粘度指数は、丸めの幅を1に丸める必要があります。
引用元:JISK2283:2000 原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法
B法の計算例
試料Bについて、40℃における動粘度が22.83mm^2/s、100℃における動粘度が5.05mm^2/sであるとします。
この場合、100℃における動粘度が2〜70mm^2/sの範囲にあてはまるため、JISK2283の付表1(p43〜48)と補間法からH=28.97と導出できます。
この値と試料の40℃における動粘度、100℃における動粘度を計算式に代入した結果は、以下の通りです。
算出した数値の丸めの幅を1に丸めて、資料Bの粘度指数は「VI=156」となります。
粘度指数向上剤とは
粘度指数向上剤とは、潤滑油の温度による影響を低減し、粘度を安定させる添加剤です。
成分としてはオレフィンコポリマー、ポリメタクリル酸エステルなどの高分子化合物が使用されるのが一般的です。
高温時にこれらの化合物が基油と相互作用することで粘度を維持します。
粘度指数向上剤は粘度向上剤や粘度調整剤と呼ばれることもあり、潤滑油の粘度を向上・調整させる目的で使用されるケースがほとんどです。
以下では、粘度指数向上剤を添加する具体的なメリット・デメリットについてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
粘度指数向上剤を添加するメリット
粘度指数向上剤を添加するメリットは、潤滑油の粘度を安定させられる点です。
潤滑油は高温になると粘度が小さくなる傾向があるため、温度が上昇するほど潤滑性能も低下しやすくなります。
粘度指数向上剤を添加すると、温度上昇に伴う粘度変化を小さくできるので、潤滑油が高温状態でも機能を保ちやすくなり、機械の摩耗を防げます。
なお「JAX JAPAN」では、粘度指数の高い耐熱性に優れた各種潤滑剤をご提供しております。
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粘度指数向上剤を添加するデメリット
粘度指数向上剤を添加するデメリットは、使い方次第で機械の故障につながる可能性がある点です。
粘度指数向上剤は熱によってカーボン化しやすいため、高温下に長時間さらされるとスラッジが発生し、機械の故障につながる場合があります。
また、長時間使用するとせん断力によりポリマーの結合が切断され、粘度指数向上剤としての機能が損なわれます。
その結果、機械の寿命が短くなる可能性もあるため、粘度指数向上剤は基油に対してバランスよく添加することが大切です。
【関連記事】潤滑油のスラッジとは?発生の原因や対策を徹底解説
潤滑油の適正粘度とは
潤滑油の粘度は種類によって様々ですが、基本的には潤滑性能を維持できる粘度が適正といえます。
潤滑油は機械を潤滑する目的で使用されるケースが多いため、潤滑性能を十分に維持できないと金属部品の摩耗を防げず、故障やトラブルの原因になります。
したがって、潤滑油を選ぶ際は使用する箇所や環境など潤滑条件を考慮したうえで、性能を維持できる粘度なのかを確認しておくことが大切です。
工業用ISO粘度分類一覧表
潤滑油の粘度にはいくつか規格があり、中でも40℃における動粘度で規定されたものが「ISO粘度分類」です。
工業用ISO粘度分類では、2〜3,200mm^2/sまでの20グレードで動粘度が区分されています。
ISO粘度グレード番号 | 中心値の動粘度 mm^2/s
(40℃) |
動粘度範囲 mm^2/s
(40℃) |
|
ISO VG 2 | 2.2 | 1.98~2.42 | |
ISO VG 3 | 3.2 | 2.88~3.52 | |
ISO VG 5 | 4.6 | 4.14~5.06 | |
ISO VG 7 | 6.8 | 6.12~7.48 | |
ISO VG 10 | 10 | 9.00~11.0 | |
ISO VG 15 | 15 | 13.5~16.5 | |
ISO VG 22 | 22 | 19.8~24.2 | |
ISO VG 32 | 32 | 28.8~35.2 | |
ISO VG 46 | 46 | 41.4~50.6 | |
ISO VG 68 | 68 | 61.2~74.8 | |
ISO VG 100 | 100 | 90.0~110 | |
ISO VG 150 | 150 | 135~165 | |
ISO VG 220 | 220 | 198~242 | |
ISO VG 320 | 320 | 288~352 | |
ISO VG 460 | 460 | 414~506 | |
ISO VG 680 | 680 | 612~748 | |
ISO VG 1,000 | 1,000 | 900~1,100 | |
ISO VG 1,500 | 1,500 | 1,350~1,650 | |
ISO VG 2,200 | 2,200 | 1,980~2,420 | |
ISO VG 3,200 | 3,200 | 2,880~3,520 |
引用元:JISK2001|1993 工業用潤滑油-ISO粘度分類
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