食品機械に最適な潤滑油の選び方とは?種類と用途、規格について解説
近年では、食中毒や異物混入などの問題で、世間からは食品の安全性に対する関心が集まっています。
食品の確かな安全を確保するには、食品工場や店舗で使用される食品機械用の潤滑油の、混入リスクを回避しなければなりません。
なお、食品機械に使われる潤滑油は一般的な潤滑油とは違い、人体や品質への影響を十分に考慮しなければなりません。
よって食の安全を保証するために、定められた認証や規格に適合していることが求められます。
しかし、潤滑油にはさまざまな規格や種類があり、食品工場の設備を担当している方の中には、混乱してしまう方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、食品機械に使う潤滑油の選び方や基本的な知識について詳しく解説していきます。
食品機械用潤滑油の選び方3選
食品機械用潤滑油とは、食品加工や製造を行う機械に使用する潤滑油です。食品機械とは、食品に携わる機械全般を指し、その種類や用途は多岐に渡ります。
なお、食品機械用潤滑油のおもな選び方として、以下の3つの方法が挙げられます。
- 用途に合った『種類』の潤滑油を選定する
- 製品が取得している『規格』を確認する
- 潤滑油の『粘度』を選定する
それぞれの選び方のポイントを詳しく解説しますので、自社業務に最適な食品機械用潤滑油をお探しの方は、ぜひご確認ください。
選び方①:用途に合った『種類』の潤滑油を選定する
潤滑油は、機械や使用目的に合わせて作られています。なぜなら、高温、高湿度、高荷重などで、受けるダメージはそれぞれ違うからです。
そのため、潤滑する場所や環境により、温度、湿度、荷重からチェーンやギヤを守る必要があります。
潤滑油は、ベースオイルや添加物の配合によって、様々な性能があり、適材適所で使用しないと、潤滑油の性能を最大限に発揮できません。
まずは、どのような環境なのかを知ることからがスタートです。
選び方②:製品が取得している『規格』を確認する
潤滑油が、万が一商品に混入し、消費者が口にしてしまったとしても、健康被害へつながらない対策として、HACCP(ハサップ)という衛生管理手法があります。
HACCPは、2021年6月から食品関連事業者に義務付けられている国際的な衛生管理方法のひとつです。HACCPでは、食品機械に使用する潤滑油については、以下の優先順位で考えられています。
- 潤滑剤を使わない。
- 潤滑剤が漏れないよう・触れないようにする。
- 食品に対し偶発的な接触が許容された潤滑剤を使用する。
近年では、潤滑油を使用しない「ノンオイル機械」の開発が進んでいますが、設備が大型化してしまう問題やメンテナンス性の悪さといった様々な課題があります。
また、コスト面のハードルが高く、潤滑油の使用が現実的な対策となっています。
「食品に対し偶発的な接触が許容された潤滑油」については、後に紹介する「NSF H1規格認証」の潤滑油を選ぶことで、HACCPの求める基準をクリアできます。
関連記事:食品の衛生・安全を守るHACCPとはどんな制度?義務化の時期や手順を解説
選び方③:潤滑油の『粘度』を選定する
潤滑油は、表面に油膜を貼って、潤滑、防錆、耐水などといった効果を発揮します。油膜の厚さを決める指標が潤滑油の「粘度」です。
つまり、粘度が高いと油膜は厚くなり、チェーンやパーツの保護に繋がります。一方、粘度が極端に低い=油膜が薄いと、金属同士の摩擦が高くなり、部品の交換ペースは早くなります。
関連記事:潤滑油の粘度とは?これを知れば、適切な潤滑油の選定ができます!
食品機械用潤滑油のおもな種類と用途
食品機械の潤滑油にはさまざまな種類があり、用途に合った製品を選ぶ必要があります。なお、食品機械に使用される代表的な潤滑油の種類は、以下の通りです。
- チェーン油
- ギヤ油
- グリース
- 油圧作動油
- コンプレッサー油
- 特殊耐熱潤滑油
それぞれの特徴とおもな用途について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
チェーン油
チェーンやコンベア、ベアリングなどのあらゆる摩耗性が求められる箇所に使用します。
製パンや菓子オープンをはじめとする高温環境での食品製造工程では、耐熱性に優れたチェーン油が必要です。また、スラッジを除去する効果もあり、機械を清浄に保ちながら寿命を伸ばします。
ギヤ油
おもに歯車やヘリカルギヤ、スパイラルギヤ、ベベルギヤ、ウォームギヤなどに使用されるのがギヤ油です。運転温度、摩擦、ギヤの摩耗を低減し、最小限に抑えます。
グリース
高負荷ギヤやベアリングなど、多用途に使用可能です。機械の安定性や耐荷重性に優れる他、防錆、腐食防止の性能を有し、食品工場における機械の要求を満たします。
油圧作動油
作動油は油圧装置の中で動力媒体として、油圧システムや圧縮機、ギヤボックスなどに使用されます。加えて、潤滑、防錆、冷却などの役割もあり、油圧を動力とする機械にとっては重要なものです。
コンプレッサー油
コンプレッサーや真空ポンプに使用される潤滑剤です。シリンダーやピストンの金属接触を防いだり、潤滑油膜の作用によって、かじりつきやロックを防止します。これにより、コンプレッサー本体も冷却される仕組みです。
特殊耐熱潤滑油
極めて高温な条件下で潤滑性が必要とされているチェーンのほか、ギヤやベアリングなどの箇所に使用される特殊な潤滑油です。スラッジ、煙、臭いの発生を抑制し、チェーンなどの部品を清浄に保ちます。
食品機械用潤滑油の規格とは?
食品機械に使用される潤滑油の規格はNSFインターナショナル(National Sanitation Foundation)によって基準が定められています。
NSFインターナショナルとは、食品製造工場において化学物質の認証登録を実施している国際的な機関です。食品機器、公衆安全に基づく第三者認証機関として、食品機械用潤滑油の登録活動も行っています。
食品機械用潤滑油の規格の種類
NSFに登録されている潤滑油は4つの区分に分けられており、食品への接触可能性や使用用途に対して、それぞれ定められた規格があります。
潤滑油の選び方として、まずはこれらの規格の種類について理解する必要があるでしょう。
NSFにおける規格の区分
NSFにおいて、食品機械用潤滑油の規格は、以下の4つの区分に分けられています。
- H1
食品に接触すべきではないが、偶発的な接触が許容されるもの。食品機械のチェーンや軸受に使用される規格。
- H2
食品に絶対に接触してはならないもの。ただし、食品工場の内部や周囲で食品の置かれていない場所(食品と接触する可能性のない場所)では使用が可能である規格。
- H3
食肉工場などで肉を吊るすフックの錆止め防止に使用されるもの。大豆油など食べても問題ない防錆オイル限定の規格。
- 3H
直接食品に接触する目的で使用されるもの。グリルやフライパン等の焦げ付きを防ぐ為の植物油やカッターの表面等に使用される規格。
潤滑油の選び方の参考として、上記の各規格を抑えておきましょう。
なお、食品への偶発的な接触の可能性がある箇所に使用できるH1は、アメリカの政府機関であるFDA(Food and Drug Administration)から認証された安全性の高い原材料のみを使用した潤滑油です。
H1に規定される潤滑油の使用は、HACCPにも対応しており、食品業界やメーカーが食品機械に潤滑油を使用する際、安全基準のひとつとなっています。
まとめ
「食品機械用潤滑油」は食品機械の保全や食品の安全性を確保するために作られた潤滑油です。
潤滑油は食品の安全性に直接関わるだけに、多くの企業がNSFやHACCPなどの規格に適合している潤滑油を使用しています。
自社製品の安全性を高め、その取り組みを効果的にアピールしたいと考えている方は、NSF H1潤滑油の認証を受けた製品、認可を受けた企業からの製品購入をご検討ください。
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