潤滑油の摩擦係数とは?上昇で起こる3つのデメリットと対処法を解説
潤滑油は金属同士の滑りにくさ、すなわち摩擦係数を低減させ、機械部品の摩耗や損傷を防ぐ重要な役割を担っています。
近年は様々な種類の潤滑油が販売されていますが、金属部品の接触および、摩擦を減らすためには、摩擦係数の低減につながる潤滑油を選ぶことが大切です。
この記事では、摩擦係数の概要と上昇で生じるデメリット、摩擦係数を下げる潤滑油の選び方について解説します。
摩擦係数の低減につながる高性能な潤滑油についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
潤滑油の摩擦係数とは
潤滑油の摩擦係数とは、潤滑油が有する潤滑性質の1つであり、物体が潤滑油に接触した際の滑りにくさを表す1つの指標です。
摩擦力(F)と接触面に作用する垂直抗力(p)との比(F/p)で考えられる0〜1の値であり、値が大きいほど摩擦力が大きいことを意味します。
基本的には物質固有の値ですが、接触面の材質や表面粗度、温度、荷重など、各条件によって様々な値をとるのが特徴です。
摩擦係数の種類
摩擦係数は働く摩擦力の種類によって以下の3つに分類できます。
摩擦係数の種類 | 説明 | 大小関係 |
静止摩擦係数 | 静止状態の物体に働く摩擦力(静止摩擦力)のうち、物体が動き出す瞬間の摩擦力(最大静止摩擦力)にかかる摩擦係数 | 最も大きい |
動摩擦係数 | 動いている物体に働く摩擦力(動摩擦力)にかかる摩擦係数 | 静止摩擦係数に次いで大きい |
ころがり摩擦係数 | 球や円形の物質が転がる際に働く摩擦力(ころがり摩擦力)にかかる摩擦係数 | 最も小さい |
最大静止摩擦力は物体が動く瞬間に働く摩擦力なので、動いている物体に働く動摩擦力よりも大きい傾向にあります。
ころがり摩擦力は、動かしにくさの低減目的に適用される摩擦力であり、他の摩擦力に比べて小さいのが特徴です。
潤滑面のおもな状態
潤滑面の状態は使用する潤滑剤の量や種類に応じて変化しますが、おもな状態としては以下の3つが挙げられます。
潤滑面の状態 | 説明 |
固体潤滑 |
|
流体潤滑 |
|
境界潤滑 |
|
潤滑油の摩擦係数上昇で起こる3つのデメリット
潤滑油の摩擦係数は種類によって様々ですが、摩擦係数が上昇するにつれて以下の3つのデメリットが生じやすくなります。
- 潤滑油が劣化しやすい
- 機械部品が摩耗・劣化しやすい
- 機械にかかるランニングコストが増加する
それぞれのデメリットの詳細について解説します。
デメリット①:潤滑油が劣化しやすい
潤滑油の摩擦係数上昇は、潤滑面における発熱量の増大を意味します。
潤滑油はある程度の耐熱性を保持していますが、長時間熱にさらされると成分の分解は避けられず、潤滑性能が低下してしまうケースも少なくありません。
潤滑性能が低下した潤滑油の使用は機械の劣化にもつながるので、早い段階での交換が必要になってきます。
なお、高温下の場合、潤滑面の発熱量も大きくなる傾向があるため、より耐熱性能の高い潤滑油が求められます。
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デメリット②:機械部品が摩耗・劣化しやすい
潤滑面における発熱は潤滑油のみならず、潤滑油が接している機械部品にも伝わります。
そのため、摩擦係数が大きく、潤滑面で発熱しやすい潤滑油を使用した場合には、機械部品の摩耗や劣化につながることも少なくありません。
摩耗や劣化を起こした機械部品の使用は機械の焼き付きや故障につながるので、早急な交換が必要です。
デメリット③:機械にかかるランニングコストが増加する
潤滑油や機械部品の劣化は、機械稼働時にエネルギーのロスを生み出す1つの原因です。
摩擦係数上昇に伴う潤滑油、及び機械部品の劣化は稼働効率の低下につながり、結果として機械にかかるランニングコストを増大させることにつながります。
ランニングコストの増加は利益の減少にもつながるため、経営上の問題ともなり得るでしょう。
摩擦係数を下げる潤滑油の選び方3ステップ
摩擦係数の低下につながる潤滑油を選ぶ際には、以下の3ステップを意識すると良いでしょう。
- 潤滑条件を把握する
- 潤滑油の粘度を選定する
- 成分から潤滑油を選定する
それぞれのステップについて、以下で詳しく解説します。
ステップ①:潤滑条件を把握する
潤滑油を選定するにあたり、まずは潤滑条件をしっかりと把握しておくことが大切です。
潤滑油の摩擦係数は荷重や温度、接触面の材質や表面粗度、試験機などによって変わるため、同一条件で見比べないと正しい比較ができません。
一見低い摩擦係数を示しているものでも、使用条件によっては高くなる可能性もあるので、想定される場面に近い条件でのデータなのかを確認するようにしましょう。
ステップ②:潤滑油の粘度を選定する
潤滑油の粘度は摩擦係数に大きく関わるため、粘度を考慮したうえで選定することも大切です。
潤滑油の摩擦係数は、粘度が低いものほど上昇する傾向にあります。
そのため、摩擦係数を下げたい場合は、ある程度粘度が高い潤滑油を選ぶ必要があります。
ただし、粘度が高くなりすぎると逆に摩擦係数が増大してしまうため、自社機械の潤滑条件に合った適切な粘度の潤滑油を選定するべきです。
潤滑油の粘度と摩擦係数との関係については、以下のストライベック曲線でも確認できます。
【関連記事】潤滑油の粘度とは?動粘度と粘度指数についても解説
ストライベック曲線
ストライベック曲線とは、粘度・速度・荷重を組み合わせたパラメーター(粘度×速度/荷重)と、摩擦係数との関係を表した曲線です。
この曲線は潤滑油の粘度、及び摩擦条件(荷重、速度)による摩擦係数の変化を表しており、潤滑面の状態や摩擦係数を推測する際に用いられます。
ストライベック曲線を利用することで、潤滑油の粘度が摩擦係数に及ぼす影響を推測できます。
自社機械に使用する潤滑油の粘度を考える際は、積極的に活用すると良いでしょう。
※ストライベック曲線上の混合潤滑とは、境界潤滑と流体潤滑の中間状態であり、境界潤滑と流体潤滑が両方生じている状態のことを指します。
ステップ③:成分から潤滑油を選定する
潤滑油の摩擦係数に大きな影響を及ぼす要素の一つが含有成分です。
例えば、潤滑油のベースオイル(基油)に含まれる成分によって、摩擦係数は変動します。
同一条件で測定した場合、一般的に綿実油やパーム油などの油脂類の摩擦係数は高い傾向にあります。
対して、パルミチン酸やステアリン酸などの脂肪酸類は比較的、摩擦係数が低いのが特徴です。
また、基本的には液体の潤滑油よりもグリースのような半個体または、個体潤滑剤の方が摩擦傾向は高くなります。
潤滑油を選定する際は、含有されている成分や添加剤についてしっかりと確認しておくことが大切です。
【成分別】摩擦係数一覧表
各成分の摩擦係数について、主要な測定機として知られる曽田式四球試験機、及び振子式II型試験機(50℃)のそれぞれで測定した値を以下にまとめました。
リチウムグリース以外の成分については潤滑油の基油に対し、各成分が1%含まれる状態での摩擦係数を記しています。
成分 | 曽田式四球試験機で測定した摩擦係数 | 振子式II型(50℃)で測定した摩擦係数 | |
基油 | 0.092 | 0.29 | |
油脂類 | 綿実油 | 0.093 | 0.23 |
パーム油 | 0.088 | 0.24 | |
牛脂 | 0.072 | 0.13 | |
ラード油 | 0.092 | 0.24 | |
高級アルコール類 | ミリスチルアルコール | 0.082 | 0.29 |
セチルアルコール | 0.080 | 0.26 | |
脂肪酸類 | ラウリン酸 | 0.078 | 0.18 |
パルミチン酸 | 0.080 | 0.11 | |
ステアリン酸 | 0.079 | 0.10 | |
オレイン酸 | 0.081 | 0.13 | |
ポリマー類 | オレフィンポリマー | ー | 0.22 |
ポリメタクリレート | ー | 0.15 | |
石油系潤滑油 | 冷凍機油 | ー | 0.18 |
作動油 | ー | 0.14 | |
ギヤ油 | ー | 0.12 | |
モーター油 | ー | 0.20 | |
リチウムグリース | 0.085 | 0.12 |
引用元:ジュンツウネット21|2021年 潤滑剤の摩擦係数 について
摩擦係数を低減する添加剤一覧表
摩擦係数を低減、または調整する添加剤は、一般的に摩擦調整剤や摩擦修正剤、フリクションモディファイア(FM)などと呼ばれます。
なお、摩擦調整剤にはおもに以下のようなものが該当します。
摩擦調整剤に該当する添加剤 | 特徴 |
油性向上剤 | ・摩擦面に対して物理的または化学的に吸着することで、潤滑油の油性を向上させる添加剤 |
極圧剤 | ・金属間の摩擦や摩耗の減少、焼き付きの防止を目的と使用される添加剤 |
固体潤滑剤 | ・黒鉛、カーボンナノチューブ、フッ素樹脂(PTFE)などの粉体として使用される潤滑剤
・グリスの添加剤や増ちょう剤として使用される |
【関連記事】潤滑油添加剤とは?9つの種類別に特徴や成分、用途・役割を徹底解説
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NSF H1潤滑油は、国際的な第三者機関「NSF」が定める「H1規格」を満たした食品機械用潤滑油です。
米国食品医薬局(FDA)によって認可された原材料が使用されているため、食品機械の摩擦を低減させる目的でも安全に使用できます。
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【関連記事】食品機械用潤滑油とは?重要性や求められる品質を徹底解説