潤滑油は蒸発する?気化する温度と蒸発量が少ない製品選びのポイント3選
潤滑油は、高温環境下で蒸発または気化する性質があります。
蒸発によって潤滑油が減少すると、潤滑効果が失われ、摩擦や摩耗が増え、機械の故障リスクが高まります。
自社機械の安全性と寿命を確保するためには、環境と用途にあった適切な潤滑油を選ぶことはもちろん、できるだけ蒸発量が少ない製品を使用する必要があります。
この記事では、潤滑油の蒸発特性を左右する3つの要素から起こりうる事象を詳しく解説します。
蒸発しにくい潤滑油の選び方もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
潤滑油が蒸発する温度
潤滑油は一般的に200℃以上で蒸発し始め、350℃を超えるとさらに加速すると言われています。
ただし、潤滑油は純物質ではなく、さまざまな炭化水素(炭素と水素からなる化合物)の集合体であり、一定の沸点は存在しません。
各成分の沸点が異なるため、すべてが同時に蒸発するのではなく、温度上昇に伴って沸点の低い成分から順に少しずつ蒸発していきます。
また、すべての成分が蒸発するのではなく、一部は炭化していきます。
炭化した成分は気化せずに固形化するため、潤滑油全体が蒸発するわけではありません。
なお、潤滑油は低温でも微量ですが、少しずつ蒸発しており、独特の匂いの原因にもなっています。
潤滑油の蒸発特性を左右する3つの要素
潤滑油の蒸発特性を左右する要素は、以下の3つです。
- 粘度
- ベースオイル
- 添加剤
紹介する3つの要素を考慮・比較して、自社の用途に適した性能を持つ潤滑油を選定しましょう。
要素①:粘度
一般的に、粘度が高い潤滑油ほど蒸発しにくい傾向があります。
なぜなら、粘度が高いと粘度が高いと分子間の結合力が強くなり、潤滑油が気化しにくくなるためです。
また、粘度が高い潤滑油は揮発成分が少なく、使用中に蒸発して潤滑性能が低下するリスクが低くなります。
粘度が高い潤滑油を選ぶことで、長期間にわたって安定した性能を発揮し、機械の保護や効率的な運転をサポートしてくれるでしょう。
要素②:ベースオイル
潤滑油の蒸発特性は、使用されるベースオイルの種類によって大きく変わります。
合成油や精製度の高いベースオイルは低分子量の成分を少なく含んでいるため、同じ粘度の鉱油に比べて蒸発しにくい傾向があります。
低分子量の成分は蒸発しやすいため、合成油や精製度の高いオイルは蒸発による損失が少なく、高温や厳しい環境でも安定した性能を発揮してくれるでしょう。
一方、鉱油は安価なため、幅広い用途で使われますが、高温下や過酷な条件では蒸発が進みやすくなります。
そのため、高温環境下での使用には化学合成油が適しています。
【関連記事】ベースオイルとは?潤滑剤に使用されるおもな種類・成分と役割を解説
要素③:添加剤
潤滑油に含まれている添加剤の種類によって、潤滑油の蒸発特性に大きく差が出ます。
蒸発特性を改善する添加剤は、以下のとおりです。
- 粘度指数向上剤
- 酸化防止剤
- 清浄分散剤
- 耐荷重添加剤 など
例えば、粘度指数向上剤は、高温時における潤滑油の粘度変化を抑える働きをするため、蒸発損失を減少させるのに役立ちます。
このように添加剤は、潤滑油における特性の性能を向上させるのが特徴です。
適切な添加剤の選択と配合比率の調整によって、潤滑油の蒸発特性を最適化できるでしょう。
【関連記事】潤滑油添加剤とは?9つの種類別に特徴や成分、用途・役割を徹底解説
潤滑油の蒸発によって起こる3つの事象
潤滑油の蒸発によって起こる事象は、以下の3つです。
- スラッジが発生しやすくなる
- 機械の劣化が早まる
- 注油・メンテナンスの頻度が増える
ここからは、それぞれの事象について詳しく解説します。
事象①:スラッジが発生しやすくなる
高温環境下で潤滑油が蒸発すると、熱による分解や酸化などの化学変化が進み、スラッジが発生しやすくなります。
なぜなら、高温環境下で潤滑油を構成する成分が分解され、添加剤も変質することで、変色や劣化が進行してしまうからです。
スラッジが蓄積すると、潤滑油が部品に行き渡らなくなり、部品の摩耗や故障につながります。
また、スラッジの混入が製品の品質や衛生面に問題をもたらす可能性も少なくありません。
スラッジ対策としては、まず高温環境に適した潤滑油を選ぶことが重要です。
さらに、自浄作用のある潤滑油に切り替えることで、スラッジ発生を防げるでしょう。
【関連記事】潤滑油のスラッジとは?発生の原因や対策を徹底解説
事象②:機械の劣化が早まる
潤滑油が蒸発すると、機械部品に必要な油膜が十分に形成されず、潤滑性能が低下します。
油膜の役割は、部品間の摩擦を軽減し、摩耗や熱の発生を防ぐことです。
そのため、油膜が不十分になると摩耗や熱の影響により、機械動作がスムーズでなくなり、効率が悪化します。
機械に負荷が蓄積することで、部品の破損や故障に繋がる可能性が高まるでしょう。
事象③:注油・メンテナンスの頻度が増える
潤滑油が蒸発すると、潤滑性能が低下し、機器の故障リスクが高まるため、注油やメンテナンスの頻度が増加します。
潤滑油は通常、時間の経過や使用に伴い徐々に劣化しますが、特に高温下では蒸発が進み、劣化速度が早まります。
蒸発によって潤滑油の効果が短期間で失われるため、従来よりも短いサイクルで注油が必要になるでしょう。
また、故障の予防や機器のパフォーマンス維持のために、より頻繁な点検やメンテナンスが求められます。
結果として、部品交換や修理が必要になる頻度が増え、メンテナンスコストの増加につながるでしょう。
蒸発しにくい潤滑油を選ぶ際のポイント3選
蒸発しにくい潤滑油を選ぶ際のポイントは、以下の3つです。
- 耐熱性・使用可能温度
- 粘度指数
- 清浄性・自浄作用
ポイントを押さえることで、過酷な環境でも性能を維持する潤滑油を選べるでしょう。
ポイント①:耐熱性・使用可能温度
高温にさらされると、潤滑油は蒸発しやすくなるため、耐熱性が高い潤滑油を選ぶことが重要です。
耐熱性が高い潤滑油を選ぶことで、蒸発を抑え、潤滑性能を長期間維持できます。
ただし、潤滑箇所の温度がオイルの耐熱性を超えると、急速に劣化・蒸発が進行し、潤滑効果が低下する傾向にあります。
そのため、潤滑箇所の温度範囲を確認し、適切な使用可能温度を備える潤滑油を選ぶことが大切です。
なお、一般的な石油系潤滑油の使用可能温度は150°C以下ですが、JAX JAPANが提供する耐熱潤滑油は、最高315℃までの高温環境で使用可能な高い耐熱性を備えています。
また、油圧作動油やギヤ油など、用途や環境にあわせて幅広い製品ラインナップを取り揃えています。
自社機械に最適な耐熱潤滑油を見つけたい方は、以下の耐熱商品をぜひご確認ください。
ポイント②:粘度指数
高い粘度指数を持つ潤滑油は、広範囲の温度変化に対して粘度が安定しやすいため、蒸発の影響を受けにくくなります。
具体的には、粘度指数が高い潤滑油は、温度が上昇しても粘度の変化が小さく、高温環境下でも適切な潤滑性能を維持できるのが特徴です。
特に、高温環境で使用する機械や装置には、粘度指数が高い潤滑油を選ぶことで、性能の安定性を確保し、蒸発による潤滑性能の低下を防げるでしょう。
【関連記事】粘度指数とは?計算方法や粘度指数向上剤のメリット・デメリットを解説
ポイント③:清浄性・自浄作用
清浄性と自浄作用が優れた潤滑油を選ぶことで、蒸発による劣化を抑え、潤滑性能を維持できます。
潤滑油が蒸発すると、油の成分が減少し、残る成分が濃縮されることで、スラッジや不純物が生成されやすくなります。
そのため、自浄作用を含む潤滑油を選ぶことで、機械内部の清浄性を維持し、スラッジの蓄積を防げるでしょう。
なお、潤滑油の清浄性とは、機械内部に付着した汚れなどを洗い流し、部品の詰まりや汚れによる摩耗を防ぐ性能です。
一方、自浄作用は、潤滑油が自らの劣化成分を分解し、クリーンな状態を保つ能力です。
清浄性や自浄作用に優れた潤滑油を選ぶことで、スラッジの発生を抑制し、機械の安定稼働を維持できます。
なお、JAX JAPANの「Pyro-Kote FG 220」は、食品機械向けの高耐熱チェーンオイルで、優れた清浄性と自浄作用を備えています。
極めて低い蒸発性で保油時間を最大化し、潤滑性を維持し続ける高性能な潤滑油をぜひお試しください。
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高温下でも蒸発量が少ない耐熱潤滑油をお探しの方へ
潤滑油は、機械の動作をスムーズに保つ重要な役割を果たします。
しかし、高温環境で使用すると蒸発や気化が進行し、潤滑性能が低下するリスクが増加します。
特に、長時間稼働する機械や過酷な温度下で作業を行う場合、潤滑油の蒸発特性を考慮した適切な製品選びが非常に重要です。
なお、JAX JAPANでは、高温環境下でも蒸発しにくい耐熱潤滑油を豊富に取り揃えております。
機械のパフォーマンスを最大限に引き出す使用環境に最適な製品をお探しの方は、お気軽にJAX JAPANまでご相談ください。
また、耐熱性以外にも、耐水性や耐寒性、耐荷重性に優れた潤滑剤など、幅広いラインナップをご用意しています。
機械のパフォーマンスを最大限に引き出すチェーン油やグリース、ギヤ油のラインナップをぜひご確認ください。
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