潤滑油の引火点とは?発火点・燃焼点との違いや粘度との関係性を解説
潤滑油はほとんどが石油由来の製品であり、引火性を持っています。
そのため、引火点を上回る温度での作業や保管は、火災のリスクを高めます。
リスクを最小限に抑えるには、潤滑油の引火点を把握し、安全な作業条件を確保することが重要です。
この記事では、潤滑油の引火点とは何か、発火点や燃焼点との違い、粘度との関係性を解説します。
潤滑油が自然発火する温度や該当する法令もあわせて紹介するので、適切な安全対策を実施したい方はぜひ参考にしてください。
潤滑油の引火点とは?発火点や燃焼点との違い
物質が燃える仕組みは段階的に、下記の3つに分けられます。
- 引火点
- 発火点
- 燃焼点
ガソリンや灯油などの石油燃料と同様に、潤滑油もそれぞれ発火しやすさや危険度が異なります。
それぞれの基準を知ることで、火災リスクを減少させられるでしょう。
引火点とは
潤滑油の引火点とは、周囲の温度や圧力下で蒸気が発生し、点火源(火や火花など)によって引火する最低液温を指します。
最低液温は潤滑油の以下の要因によって異なり、温度が低いほど燃えやすくなります。
- 性質
- 成分
- 粘度
- 添加剤の種類 など
なお、潤滑油の引火点は120〜350℃です。
一般的に、引火点が250℃以上の潤滑油は、消防法の危険物には該当せず、代わりに可燃性液体類に分類されます。
ただし、ギヤ油やシリンダー油など一部の潤滑油は、引火点が高くても可燃性液体類に分類されず、第4石油類に属します。
引火点以下の温度でも可燃性蒸気の発生はあるため、燃焼範囲に入るほどの濃度でなくても、注意が必要です。
特に高温下では、引火点の高い潤滑油を選択することで火災リスクを最小限に抑え、作業環境の安全性を確保できます。
発火点とは
発火点とは、潤滑油が自然発火を始める最低液温です。
一般的に、引火点よりも高い温度であり、物質自体が点火源なしで燃え始める温度を指します。
例えば、潤滑油の発火点は250〜350℃です。この温度を超えると、外部の着火源がなくても自ら燃え始めます。
また、常温の空気中でも、物質が自然に発熱し、熱が蓄積されて発火点に達するケースも少なくありません。
自然発火の原因は酸化熱や吸収熱、分解熱など多岐にわたります。
日常生活でも潜在的な危険がありますので、注意が必要です。
燃焼点とは
燃焼点は、可燃性物質が点火されてから燃焼を5秒間続けるために必要な最低液温を指します。
基本的に、引火点と発火点の間にある温度と考えればよいでしょう。
なお、引火点で潤滑油が発火しても、燃焼点まで液温が達していなければ点火源が取り除かれると同時に燃焼も停止します。
反対に、点火後も潤滑油の液温が燃焼点を上回れば、燃焼は継続します。
潤滑油の自然発火温度
潤滑油の自然発火温度は、250〜350℃です。
東京消防庁のデータによれば、2023年1月から9月の工場や作業場での火災は63件発生しています。
コンデンサ(低圧)や金属と金属の衝撃火花など点火源が明らかな場合もあれば、不明なケースも少なくありません。
自然発火を防止するには、以下のポイントに気を付けて炭化物の生成や堆積を最小限に抑えることが必要です。
- 適切な潤滑油の選定
- 供給量の管理
- 吸入・吐出温度の管理 など
安全対策を講じることで、火災発生のリスクを最小限に抑えられるでしょう。
潤滑油の引火点はベースオイルの成分と粘度で決まる
潤滑油の80〜90%の割合を占めるベースオイルは、引火点にも大きく影響します。
ベースオイルの種類や性質を知ることで、自社工場に適した潤滑油を把握できるでしょう。
【関連記事】ベースオイルとは?潤滑剤に使用されるおもな種類・成分と役割を解説
ベースオイルのおもな種類と引火点
ベースオイルは、大きく以下の3つに分けられます。
- パラフィン系ベースオイル
- ナフテン系ベースオイル
- 合成油系ベースオイル
それぞれ異なる原料や製造方法に基づいており、引火点にも差異が見られます。
種類①:パラフィン系ベースオイル
パラフィン系ベースオイルは、鉱油系のなかでもっとも一般的に使用されるベースオイルの1つです。
おもに中東アジアを中心とする原油から精製され、自動車や工業設備などのさまざまな用途に適しています。
そんなパラフィン系ベースオイルの引火点は高く、約230℃(VG68)です。
高い粘度指数と引火点があり、高温で作動する機械の潤滑に適しています。
種類②:ナフテン系ベースオイル
ナフテン系は、ナフテンと呼ばれる炭化水素の一種から作られる鉱油系のベースオイルです。
ベネズエラやロシアなどの一部の油田で産出される原油から作られ、日本では、おもにオーストラリアからの輸入品が使用されています。
引火点は約192℃(VG68)と比較的低く、以下の特徴があります。
- 流動点が低い
- 溶解性が高い
- 軟膏炭化物の生成が少ない
しかし、ナフテン系原油の供給が減少しており、高品質な原油の入手が困難なのが現状です。
その結果、ナフテン系基油を使用した潤滑油も減少しています。
現在では、パラフィン系基油でも同等以上の性能が得られるようになり、ナフテン系基油に代わって使われることが増えています。
種類③:合成油系ベースオイル
合成油系は、天然の原料から直接抽出されるわけではなく、化学合成によって作られるベースオイルです。
鉱油系と比較して、使用可能な温度範囲や条件が広範囲に及びます。
そのため、下記のような特殊な条件下でも性能に変化が生じにくいのが特徴です。
- 低温下
- 高温下
- 高速剪断
- 耐樹脂
- 真空下 など
ただし、条件によっては鉱油系潤滑剤よりも性能が劣るケースもあります。
鉱油と比較して価格も高くなりがちなので、特殊な条件下での使用が適しているでしょう。
なお、JAX JAPANが提供する「JAX Pyro-Kote FG 220」は、320℃の高い引火点を誇る食品機械用耐熱チェーンオイルです。
高温下でも安全に使用でき、機械の焦げ付きやスラッジの発生を抑えられる高性能な潤滑油をお探しの方は、ぜひ導入をご検討ください。
>>食品機械用耐熱チェーンオイル「JAX Pyro-Kote FG 220」の詳細を確認する<<
引火点に影響するベースオイルの性質
ベースオイルの基本的な特性の1つである粘度は、オイル内の分子量に影響を受けます。
さらに精製工程中に行われる蒸留操作によって、ベースオイル中の分子サイズや配列が調整され、粘度が変化します。
ベースオイルの性質として、粘度と分子量が引火点にどう影響するのか詳しく見ていきましょう。
性質①:粘度
粘度が高い潤滑油は、一般的に引火点が高く、高温環境下でも安定して使用できる傾向があります。
これは、粘度指数が高い潤滑油が温度変化に対してより安定しているため、高温下での熱分解や酸化が抑制され、引火点が上昇する傾向があるからです。
また、主成分であるベースオイルは、鉱物油系よりも合成油系が粘度指数が高く、より安定した潤滑油とされています。
【関連記事】潤滑油の粘度とは?動粘度と粘度指数についても解説
性質②:分子量
分子量とは、物質中の分子が含有する原子の数の総計を示します。
一般的に、分子量が大きいほど高温環境下で蒸発しにくいため、引火点は高くなります。
なぜなら、高分子量の油は、分子間の相互作用が強く、より多くのエネルギーを吸収するため、燃焼が難しくなるからです。
一方、低分子量成分は、高温で容易に気化し、ヒューム(油煙)を発生させます。
その結果、引火点が低下し、火災リスクが高まるでしょう。
なお、合成油系は低分子量成分の影響を受けにくく、高分子量留分が多いため鉱物油系と比較して高い引火点を示す傾向があります。
引火点を向上させるには、分子量分布が狭い鉱物油系ベースオイル(ナローカット)か、合成油系を選択する必要があります。
潤滑油の引火点に関する法令
潤滑油は一般的に引火性を持っていますが、労働安全衛生法では、引火点が65℃未満の物質を「引火性の物」と規定しています。
そのため、多くの潤滑油はこの規定には含まれません。
一方、消防法の区分では、潤滑油は危険物第四類の第三および第四石油類、可燃性液体類に分類されます。
特に、工場などで多くの潤滑油を使用する場合は、消防法によって定められた取扱数量を守る必要があります。
なお、平成13年7月の消防法改正により、引火点が250℃以上の潤滑油は危険物から除外され、可燃性液体類として扱われるようになりました。
しかし、ギヤー油やシリンダー油は品目指定で第四石油類に指定されているため、引火点が250℃を超えても可燃性液体類とはなりません。
【関連記事】潤滑油の適切な保管方法とは?3つの注意点や消防法における数量指定を解説
引火点と耐熱性が高い潤滑油をお探しなら
引火点と耐熱性が高い潤滑油をお探しなら、「JAX JAPAN」へおまかせください。
現在、食品工場の火災発生件数は、約200件台を横ばいで推移しています。
そのなかで、火災の際に最初に発火したものが可燃性液体類のケースは約7件です。
火災発生だけでなく、火災の被害を最小限に抑えるためにも、自社工場に適した潤滑油を選ぶことが大切です。
JAX JAPANが提供する「JAX Pyro-Kote FG220」は、引火点320度、耐熱315度でスラッジや煙、臭いの発生を抑制します。
また、JAX JAPANでは、H1チェーン油やギヤ油など用途に合わせた耐熱製品も取り揃えております。
自社の機械に最適な耐熱潤滑油をお探しの方は、ぜひ以下の「製品ラインナップ」をご確認ください。
なお、自社工場に最適な潤滑剤の選び方が分からない方は、お気軽にJAX JAPANへご相談ください。
【関連記事】潤滑油は危険物なのか?危険性と適切な管理・取り扱いを徹底解説!
【関連記事】耐熱グリスとは?成分別におもな種類と特徴、使用可能温度を解説
【関連記事】潤滑油の種類と特徴|機械に最適な選択肢を見つけるポイントも解説