ギヤ油とは?JIS規格1種と2種の違いや粘度別の種類をプロが解説
ギヤ油は、機械の歯車やギヤを潤滑し、適切な動作を保つために使用される潤滑油です。
工業用ギヤ油は、一般機械や圧延機などに使用され、歯車同士の接触や摩擦を最小限に抑え、機器の寿命を維持する役割を担います。
しかし、歯車や軸受はさまざまな負荷にさらされるため、適切なギヤ油を選定する必要があります。
この記事では、ギヤ油とは何かJIS規格に基づく工業用ギヤ油の違いを解説します。
ギア油に求めるべき4つの性能についてもあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ギヤ油とは
ギヤ油は、歯車や軸受などで使用される潤滑油の一種です。
ギヤの歯面と歯面の間に油膜を形成し、金属同士の直接接触を防ぎ、歯車のスムーズな回転と摩耗、摩擦を軽減するために使用されます。
ギヤ油は、おもに2つの種類に分けられます。
- 自動車用ギヤ油
- 工業用ギヤ油
機器の性能と寿命を維持するためにも、適切なギヤ油の選定と注油、オイル交換などの定期的なメンテナンスを心がけましょう。
ギア油に求められる4つの性能
ギア油に求められる性能は、以下の4つです。
- 耐荷重性能
- 熱酸化安定性
- さび止め・腐食防止性
- 泡立ち防止性
それぞれの性能について詳しく解説します。
性能①:耐荷重性能
耐荷重性は、ギヤ油が高負荷下で効果的に機能するために重要な性能です。
歯車や軸受けなどには、大きな負荷がかかるため、部品が適切に動作し、摩耗や損傷が発生しないように保護する必要があります。
耐荷重性の高いギヤ油は、適切な潤滑性を維持しながら、高負荷下での摩耗や損傷を最小限に抑えられるのが特徴です。
性能②:熱酸化安定性
熱酸化安定性は、高温条件下で酸素と接触した際に、酸化反応によってギヤ油の分解や変質を防ぎます。
ギヤ油は高温で運転される際、酸素との接触により潤滑油中の分子が酸化反応を起こします。
酸化反応によって生成される化合物は、潤滑油の性能を劣化させ、有害なスラッジや沈殿物を生成する原因になりかねません。
高温下で酸化反応が遅延されるほど、ギヤ油は長期間にわたってその性能を維持できます。
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性能③:さび止め・腐食防止性
ギヤ油には金属部品に水分や酸素が付着するのを防ぎ、さびや腐食から保護するための性能も求められます。
歯車などの機器はさまざまな環境で使用されるため、湿気や水分が部品に侵入する可能性があります。
さびや腐食は歯車の表面を傷つけ、スムーズな動作を妨げる要因の一つです。
さび止め・腐食防止性が高いギヤ油は、金属表面に保護膜を形成し、さびや腐食の発生を防ぎます。
性能④:泡立ち防止性
高速回転する歯車や車輪で使用されるギア油には、泡立ち防止性も求められます。
潤滑箇所やギア油に泡が発生すると、以下のようなトラブルを引き起こす可能性があります。
- 潤滑性能の低下
- 冷却効果の低下
- 部品の損傷
泡立ち防止性の高いギヤ油は、泡の形成を抑え、安定した潤滑性能を維持できるのが特徴です。
JIS規格に基づく工業用ギア油の種類一覧
工業用ギヤ油は用途によって、JIS規格で1種と2種に分類されています。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
工業用ギア油における1種と2種の違い
1種と2種のおもな違いは、負荷に対する適合性です。
1種と2種の違いは、下表の通りです。
粘度指数 | 引火点 | 流動点 | 銅板腐食 | さび止め
性能 |
抗乳化性 | 耐荷重能 | |||
54℃ | 82℃ | ||||||||
工業用1種 | ISO VG32 | 90以上 | 170
以下 |
1以下 | 1以下 | さびが
ないこと |
60分
以下 |
- | - |
ISO VG46 | 180以上 | ||||||||
ISO VG68 | |||||||||
ISO VG100 | 200以上 | -5
以下 |
- | 60分
以下 |
|||||
ISO VG150 | |||||||||
ISO VG220 | |||||||||
ISO VG320 | |||||||||
ISO VG460 | |||||||||
工業用2種 | ISO VG68 | 90以上 | 180
以上 |
-15以下 | 1以下 | さびが
ないこと |
60分
以下 |
- | 規定
しない |
ISO VG100 | 200
以上 |
- | 60分
以下 |
||||||
ISO VG150 | |||||||||
ISO VG220 | -10以下 | ||||||||
ISO VG320 | |||||||||
ISO VG460 | -5以下 | ||||||||
ISO VG680 |
1種は一般機械の比較的軽荷重の場合に使用します。
一方、2種は一般機械や圧延機などの中・重荷重に適しています。
ISO粘度グレード(JIS規格)による工業用ギア油の分類一覧
ISO粘度グレードは、工業用潤滑油の粘度を示す指標です。
国際標準化機構(ISO)により、40℃におけるギヤ油の動粘度範囲が規定されています。
ISO粘度グレード | 種類 | 粘度範囲 |
32 | ISO VG 32 | 28.8以上35.2以下 |
46 | ISO VG 46 | 41.4以上50.6以下 |
68 | ISO VG 68 | 61.2以上4.8以下 |
100 | ISO VG 100 | 90.0以上110以下 |
150 | ISO VG 150 | 135以上165以下 |
220 | ISO VG 220 | 198以上242以下 |
320 | ISO VG 320 | 288以上352以下 |
460 | ISO VG 460 | 414以上506以下 |
680 | ISO VG 680 | 612以上748以下 |
動粘度とは、オイルの流動性を示す値であり、VGの値が大きければ粘度が高いことを意味します。
高負荷がかかる機器には、粘度の高いギア油が適しているでしょう。
AGMA規格に基づく工業用ギア油の種類一覧
AGMA(米国歯車製造者協会)は、工業用ギヤ油についてタイプ分類しています。
タイプ | 歯車の形式 | 摘要 | |
密閉系歯車 | R&O | ・平歯車
・かさ歯車など |
鉱油に酸化防止剤とさび止め剤を添加したもの |
EP | ・平歯車
・かさ歯車 ・ウォームギヤなど |
鉱油に極圧剤を添加したもの(ナフテン酸鉛系あるいは硫黄~りん系) | |
コンバウンド | ウォームギヤなど | 鉱油に3~10%の脂肪油あるいは合成脂肪油を添加したもの | |
合成油 | 特殊な条件下で使用 | ジエステル、ポリグリコールおよび合成炭化水素系を添加したもの | |
開放系歯車 | コンバウンド
(希釈) |
・平歯車
・かさ歯車など |
粘度の高いグレードのストレート鉱油またはEP油で揮発性の不燃性溶剤で希釈したもの |
歯車の形状にはさまざまな種類があり、それぞれに適したギヤ油のタイプが存在します。
潤滑箇所に応じて、適切なタイプのギヤ油を選びましょう。
引用元:AGMA: 米国歯車製造者協会
ギア油を選定する際のチェックポイント3選
ギヤ油を選定する際のチェックポイントは、以下の3つです。
- 歯車の種類や装置の形式
- 荷重や周囲温度などの使用条件
- ギア油の粘度や含有成分・添加剤
ポイントを考慮して、最適なギヤ油を選定しましょう。
ポイント①:歯車の種類や装置の形式
まず、ギヤ油を選定するには、使用する歯車の種類や装置の形状を把握する必要があります。
歯車の種類は多岐にわたります。
- 平行軸
- 交差軸
- 食い違い軸
例えば、平行軸は直線的な歯車で、高い回転速度で使用されます。
そのため、平行軸歯車に適切なギヤ油は、高い粘度指数と耐摩耗性を持つものを選ぶ必要があるでしょう。
歯車や形状を理解し、適したギヤ油を選定することで、機器の性能と寿命を最適化できます。
なお「JAX JAPAN」では、一般的な歯車やヘリカルギヤ、スパイラルギヤ、ギアボックスなど、幅広い用途で使用できる「H1ギヤ油」をご提供しております。
特に、ウォームギヤの潤滑に適しており、統計的に3〜5%のエネルギー削減を期待できるのが特徴です。
自社の生産性向上や自社機械の長寿命化を実現するハイグレードなギヤ油をお探しの方は、ぜひ詳細をご確認ください。
ポイント②:荷重や周囲温度などの使用条件
ギヤ油を使用する箇所の荷重や周囲温度などの使用条件によって、選定することが大切です。
例えば、高荷重の環境では、耐荷重性能が必要です。
また、高温環境ではギヤ油が酸化しやすくなり、粘度が低下します。
一方、低温環境ではギヤ油の粘度が上昇し、潤滑性が低下する可能性があるでしょう。
高温環境では酸化安定性と耐熱性、低温環境では流動性を保つことが求められます。
歯車の荷重や周囲温度など使用条件に応じて、適切なギヤ油を選定することで、摩耗や損傷のリスクを軽減できます。
ポイント③:ギア油の粘度や含有成分・添加剤
ギヤ油の粘度は、潤滑性に大きく影響します。
一般的に高負荷や高温環境では、高粘度のギヤ油が必要です。
適切な粘度を選ぶことで、歯車の潤滑性能が最適化されます。
また、ギヤ油にはさまざまな含有成分や添加剤が含まれており、下記の役割を果たします。
- 潤滑性
- 摩耗保護
- 酸化安定性
- 防さび性
- 腐食防止性など
ギヤ油の粘度や含有成分・添加剤は、ギヤシステム内に必要とする要件に直接関連します。
要件に合致するギヤ油を選定することで、機器の寿命を維持できるでしょう。
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歯車や軸受などの正常な動作と寿命を維持するには、適切なギヤ油の選定が欠かせません。
加えて、食品工場や飲食業界などで使用される場合は、潤滑性能だけでなく製品の安全性も考慮する必要があります。
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