潤滑油の劣化分析とは?3種類の分析法と代表的な試験項目を解説
劣化分析法は、潤滑油の品質および性能を評価し、機械の正常な動作を確保するために非常に重要です。
潤滑油は生産性を維持し、生産設備機械をスムーズに動作させるために欠かせません。
劣化して潤滑油は、機器の性能低下や故障のリスクが高まるため、トラブルが起こる前に潤滑油を交換する必要があります。
しかし、潤滑油交換には人件費や不稼働時間による損失などあらゆるコストがかかります。
劣化具合を分析し、交換時期を適切に見極めることで、トラブルを未然に防ぐだけでなく、あらゆるコストを抑えられるでしょう。
この記事では、潤滑油の劣化分析とは何か、分析法と代表的な試験項目について解説します。
潤滑油の劣化分析とは
潤滑油の劣化分析は、あらゆる生産設備機械における保全活動の一環であり、科学的評価に基づいて管理するために実施されます。
潤滑油は機器のスムーズな動作を助けるだけでなく、摩擦や摩耗を軽減し、さびなど腐食の抑制にも役立ちます。
しかし、使用に伴い、酸化による粘度上昇や金属粉が混ざるなど、さまざま要因で潤滑油は劣化します。
劣化した潤滑油は、機器の正常な動作や寿命に大きな影響を与える要因のひとつです。
放置を続ければ、部品交換や生産停止にもつながる可能性があります。
劣化分析を通じて、劣化や酸化によるオイル状態を事前に把握し、交換時期を見極めることが、安全な生産につながります。
【関連記事】潤滑油分析の重要性とは?おもな目的と測定方法、劣化診断について解説
潤滑油が劣化するおもな原因
潤滑油は、時間の経過とともに劣化します。
具体的には潤滑油の粘度が上昇し、機器内部へ効率的に到達できなくなります。
その結果、潤滑箇所に摩擦や摩耗が発生し、機器の寿命低下や故障などのトラブルが起こりやすくなるでしょう。
潤滑油が劣化するおもな原因は、以下の3つです。
- 異物の混入
- 基油の酸価劣化
- 添加剤の変質劣化
異物とは小さなほこりや鉄粉、水分、化学物質などを指します。
潤滑油に異物が入り込むと化学変化が起き、潤滑油の性能に変化が起きます。
通常なら浸透していた潤滑油が浸透せず、部品同士の摩擦が起き、機械の故障につながります。
劣化要因は潤滑油の品質や性能に悪影響を及ぼすため、劣化を分析し、適切なメンテナンスと交換を実施することが重要です。
定期的な交換や品質管理を実施することで、機器の寿命を延ばし、適切な性能を維持できるでしょう。
潤滑油のおもな劣化分析法3選
潤滑油の劣化は、以下の3つの方法によって分析できます。
- 性状分析
- 組成分析
- 金属分析
それぞれを詳しく見ていきましょう。
分析法①:性状分析
性状分析は、潤滑油の性状や劣化の程度を把握する方法です。生産設備機器の潤滑管理において日常的に実施されている分析方法といえます。
性状分析の主要な項目は、以下の通りです。
- 水分
- 酸価
- 動粘度
- 色相
- 界面張力
- きょう雑物
- 酸化安定度 など
例えば、酸価は、酸化による劣化度合を測定する指標であり、色相は、劣化による色の変化を測定する指標です。
性状を把握することで、機器のトラブル回避に役立ちます。
分析法②:組成分析
潤滑油の組成分析は、性状分析では分からない潤潤滑油中の基油や添加剤を分析し、性能や性質を診断する方法です。
おもな分析方法は、以下の通りです。
- 赤外分光分析(IR)
- 核磁気共鳴分析(NMR)
- 質量分析(MS)
- 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
- ガスクロマトグラフィー(GC) など
上述の手法を、目的に応じて使い分けることで適切な組成分析が可能です。
例えば、IR分析は潤滑油中の化学変化や汚染物質を評価できます。
一方、HPLC分析は化合物を分離し、添加物を分析するのに効果的です。
組成分析によって、異物や汚染物質、添加剤など潤滑油の品質劣化の要因を特定できます。
分析法③:金属分析
金属分析は機器や機械の動摩擦によって、生成される摩擦粉や摩耗物質を調査し、機器の異常や劣化を診断する方法です。
おもな分析方法は、以下の通りです。
- SOAP法
- フェログラフィ法 など
SOAP法は潤滑油中の金属元素の濃度を測定し、異常を検出する方法です。
一方、フェログラフィ法は、摩耗や摩擦によって生成された摩耗粒子の量と形状を調べます。
金属分析により、潤滑油内での摩耗の程度や摩耗部品の種類を特定し、機械の健全性や潤滑油の交換時期を判断できます。
潤滑油の劣化分析におけるおもな試験項目一覧表
下表は、潤滑油の劣化分析における試験科目の一覧です。
試験項目(単位) | 定義・測定法 |
ASTM色(16段階) | ASTM色標準ガラスと潤滑油の色を比較し、劣化度を分析 |
動粘度(㎟/s) | 重力下での油の流れにくさの尺度で、絶対粘度を試料密度で割った値(㎟/s@40℃のように、試験温度を併記) |
全酸化(mgKOH/g) | 試料油1g中の全酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムの量 |
全塩基準(mgKOH/g) | 試料油1g中の全塩基性成分を中和するのに必要な塩酸と等量の水酸化カリウムの量 |
引火点(℃) | 規定の昇温速度で油を加熱し、油面上の混合気に小さな炎を近づけたときに引火する最低温度 |
流動点(℃) | 規定の冷却速度で冷却したとき、流動性を失う最低温度 |
ペンタン不溶解分(mass%) | サンプル油にn-ペンタンを加え撹拌し遠心分離した沈殿物(金属摩耗粉等の不溶物)の重量 |
水分(Vol%、mass%、ppm) | サンプル油量に対するサンプル油中の水分量の比率
(クラックル試験、カールフィッシャー試験) |
汚染度:粒子計数法 | 顕微鏡やパーティクルカウンタを使用して、汚染微粒子の数と粒径を測定する方法(ISO4406清浄度コードを用いて表示) |
汚染度:質量法(mg/100mL) | メンブランフィルタで油を濾過する前と濾過した後のフィルタの重量差 |
海中金属元素分析:SOAP | 油中の物質(摩耗粉、異物等)の成分と濃度を発光分光分析等で検出 |
赤外分光分析:IR | 赤外領域の吸収スペクトルにより、化合物(酸性生成物、添加物)の分子構造を解析 |
分析フェログラフィー | 油中摩耗粉を磁力でスライド上に大きさの順に配列し、粒子の形状、量、色より潤滑状態を診断 |
回転ボンベ式酸化安定度試験:PRVOT(min) | 銅のコイル状触媒と蒸留水を含む加圧酸素容器内の試料油の高温酸化安定性(タービン油対象) |
引用元:精密工学会誌|2009年 潤滑油の劣化診断・検査技術*
上記以外にも、粘度測定は潤滑油の品質管理や劣化診断に役立つ手法です。
比較的簡単に実施でき、費用も低いため、粘度測定の結果から追加の項目を増やすか判断するケースもあります。
【関連記事】潤滑油の粘度とは?動粘度と粘度指数についても解説
潤滑油の劣化分析の代表例3選
代表的な劣化分析方法は、以下の3つです。
- 色(ASTM番号)による劣化分析
- 分光による診断
- 誘電率・導電率による診断
それぞれを順番に見ていきましょう。
例①:色(ASTM番号)による劣化分析
潤滑油の色による劣化診断は、目視で確認できるため、コストをかけずに劣化状況を把握するのに役立つ方法です。
評価基準となるASTM番号は、石油製品の色を評価するために数値化された指標です。
石油製品の色は淡い色(0.5)から濃い色(8.0)までの範囲があり、試料とASTM色標準ガラスを比較して、潤滑油の劣化具合を予想します。
基本的に、新油の色は使用する種類や機器によって異なります。
しかし、酸化や異物混入などにより、潤滑油が劣化すると、徐々に赤く変色します。
そのため、新品状態の潤滑油から2以上濃く変化していたら、酸化劣化限界に達していると見なされます。
例②:分光による診断
分校による診断は、赤外線を使用して分子レベルで潤滑油の劣化状態を分析する方法です。
分光による分析は、以下の2つがあります。
- 赤外分光法
- 近赤外分光法
分光法は非常に高度かつ、正確な劣化診断が可能な方法です。
潤滑油の分子構造や組成を詳細に分析できるため、正確な劣化状況を定量的に評価できます。
詳細なデータを蓄積することで、過去に起こった不具合データと比較し、機器の総合的なリスク管理に役立ちます。
ただし、技術が必要であり、サンプリングから試験レポートの受け取りまでに時間がかかる傾向にあります。
例③:誘電率・導電率による診断
誘電率と導電率による潤滑油の劣化診断は、不純物の存在に基づいて行われる診断方法です。
劣化は、水分や鉄分、すすなどの不純物によって引き起こされます。
これらの不純物は誘電率が高いため、劣化しているかどうか分析しやすいでしょう。
また、センサーを使用して誘電率と導電率を測定することで、リアルタイムで潤滑油の状態を監視できます。
異常を早期に検出できるため、予防措置を講じるのに役立ちます。
しかし、異常の原因を詳細に把握できない点がデメリットです。
潤滑油を長持ちさせる方法
潤滑油を長持ちさせるためには、以下の方法があります。
- 保管方法や保管場所を改善する
- 適切に交換する
潤滑油は、時間や環境によって経過とともに劣化します。機器の使用状況に応じて、適切な交換時期を決定することが重要です。
タイミングを見極めれば、機器の故障リスクを減らすだけでなく、交換にともなう費用など、あらゆるコスト削減につながるでしょう。
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